このサイトでの初めての投稿がこんなネタになるとは思わなかった。
けれど、マンガ好きの私らしいネタだなぁと思ったりもしている。
知っている人は知っていると思うが
ネット上で江口寿史のトレース騒ぎが起きている。
江口寿史の手がけたルミネの広告イラストが
インスタで見かけた写真を無許可でトレースしたものであった事が発覚。
その流れで近年の多くのイラストが雑誌やネットで拾った写真をトレースしたものだという事が
掲示板やSNSの人たちによって暴かれ続けている。
なんて馬鹿なことをしたんだろう。と言うのが率直な感想。
そして
「ああ、なるほどね。そういう事だったのか」
と冷めた気持ちになっている私がここにいる。
「えっ?信じられない」ではなく
「あ~納得したわ」と言う感じ。
私はアラカンなので江口寿史のデビュー作をリアルタイムで読み
『すすめ‼パイレーツ』や『ひのまる劇場』『ストップ‼ひばりくん!』等
大好きでずっと追い続けていた。
『名探偵はいつもスランプ』や『ひのまる劇場』『GO AHEAD‼』の辺りから
ギャグマンガでありながら絵がおしゃれになって行き
「こんな絵が描きたい」と思うほど魅力的になっていった。
実際、高校生の頃に描いていた自分自身のイラストも
若干影響を受けていた事は否めない。
この頃の江口寿史の絵は、とてつもなく上手いと言う訳ではなかったが
表情、動き、服装、その全てが魅力的だった。
微妙にデッサンが狂っていても、そこもまた魅力に繋がっていた。
なにより絵が生きていた。
白いワニのせいであまり漫画が描けなくなり、未完の帝王などと呼ばれていた彼だったが
『爆発ディナーショー』や『なんとかなるでショ!』辺りの漫画はまだまだ面白かった。
やっつけ仕事な回ももちろんあったが、それでも彼の絵が魅力的なのは変わらなかった。
『キャラ者』を読んだとき「絵の感じが変わったなぁ」とは思ったが
楽しげに動くキャラクター達はまだ江口寿史の魅力を失ってはいなかった。
1990年代の江口寿史はまだ漫画家だったのだ。
何年か経ち、江口寿史がほとんど漫画を描かなくなり
イラストレーターとして有名になっていた。
元々上手かった絵は更に上手くなり、漫画ではなくおしゃれな一枚絵を描く
イラストレーターとしての地位を確固たるものにしていった。
…う~ん
確かに上手い。
上手いのだけれど何か違う。
違和感がぬぐえなかった。
好きな作家の絵なのに。
上手いのに。
線が生きてない。
なんか無機質な感じ。
江口寿史なんだけどパチモンみたいな
顔が、目が死んでるというか…。
つまらない絵を描くようになったなぁ
イラストだけを描き続けるとこうなってしまうのかなぁ。
そんな風に感じていた。
コロナが収束した頃に、江口寿史のイラストの展示会とサイン会が大阪で行われると聞いて
「行きたい!」と思った。
その時に脳裏に浮かんだのはパイレーツやひばりくんだった。
漫画家としての江口寿史に会いたいと思った。
だがしかし、詳しくサイン会の内容を調べてみると
今回のサイン会で展示されていたのは例のキレイなイラスト達だった。
江口寿史に会いたい気持ちと、この絵を見に行くのかぁ…と言う気持ちがせめぎ合い
結果的には行かない事にした。
私が好きではない絵を描く江口寿史に会ってもワクワクしないと思ってしまったのだ。
そんな感じで江口寿史と距離を置いて数年後の今、こんな騒ぎが起こった。
「納得」の一言しか出てこなかったのは当然のことである。
私のせいでオタクになった娘にも今回の件を聞いてみた。
「いや、つまらん絵を描くようになったと思ってたから驚けへんわ」との事。
私たち親子の感覚は似ているようだ。
現在、江口寿史は色々対応に追われているらしい。
今後イラストを依頼されることもなくなってしまうかもしれない。
今回の件はプロとしては恥ずかしい事だし
対応も色々間違っていて馬鹿だなあと思うけど
正直なところ彼自身の絵で描かれた漫画は読みたいと思っている。
自分の気持ちのまま、半年に一回とかでもいいので
漫画を描いてくれたらいいなぁと思う。
昔と違って発表の場、方法はいくらでもある。
締め切りに追われず、出版社も挟まず描いた漫画を発表できる良い時代だ。
白いワニに怯える事無く、気持ちのままに漫画を描けるようになって欲しい。
江口寿史と言うイラストレーターが消えても
江口寿史と言う漫画家は生き残っていると信じたい私なのだった。

